記憶1



「やっと見つけたぞ
!!真田幸村ァ、今ここで前世の決着を着けようじゃねぇか!!

「何の話だ、俺はお前など知らぬ。妙な言いがかりはつけないで頂きたい」

桜舞う季節。

高校の入学式が終わり帰路につく生徒がちらほらと見える校庭で、現世に生まれ変わった伊達政宗は、同じく生まれ変わったライバル真田幸村から信じられない台詞を返され、入学早々人生初の挫折を味わった。





「残念だったね〜、政宗」

結果、傷心で放心状態となった政宗はショックでその場を動くことが出来なかったため、同じく高校に入学した悪友で前世の記憶持ちの元親と慶次によって引き摺るように自宅へと強制送還されていた。

「くそ…ありえねぇ、例え俺があいつを忘れていても、あいつはこの俺を憶えてなきゃならねぇハズだ…!!

「理不尽だなー、それ。まぁ政宗らしいけど」

しばらく歩いて行くうちに頭が冷えて多少は復活したらしい政宗だが、まだ完全には吹っ切れてないようで終始仏頂面をくずさず、ぶつぶつ文句を言っている。ついでに足元に転がっていた石ころを蹴っちゃったりするもんだから、奥州筆頭に似合わないその哀愁漂う姿に元親と慶次は苦笑するしかなかった。

「おめぇの気持ちはわかるぜ?ただ、憶えてねぇのは本人のせいじゃあねぇからなぁ」

no!慰めはいらねぇ」

こればっかりはしょうがねぇだろと政宗に言っても突っぱねるような返事を返される始末。

だがその言葉とは裏腹に明らかに強がっている姿にもうたまらなくなった元親は、強引にその肩を強く抱き寄せる。

「慰めじゃねぇさ」

そして耳元で殺し文句を囁いた。

「今生では俺達がいるんだ、
あの野郎じゃなく俺達にしとけよ」






記憶2


「やったー!!政宗、同じクラスだよー!!俺達」
クラス分けが発表され、ざわつく周囲から一際大きな声が響いた。

Ah〜分かったから、声デカイ、慶次」

他の生徒から頭ひとつ高い慶次は、その声と同じくらい大きな態度で側の政宗に抱きついた。

「声だってデカくなるだろー!!この1年の俺の運命が今決まったんだからさー」

嬉しくてしょうがないという感情を隠すことも無く抱きしめてくる慶次に、政宗はよしよしと自分よりかなり上の位置にあるその頭を撫でた。

「おめぇら、何二人でいちゃついてやがる、俺も混ぜやがれ!!

後からやってきた元親は躊躇いもせず、政宗を慶次ごと抱きしめた。

「苦しい!!元親!」

これは小学校中学校と新学期が始まりクラスが同じになるごとに繰り返してきた恒例行事だが、どうやら高校に入ってからも続行するらしい。

他の生徒に何事かと見られていても全く気にすることなく、3人はそれぞれ喜びを表していた。

元親と慶次は特に。

『真田と別クラスだとは、これ以上の事はないな…』

などと笑顔の下で腹黒い事を考えているなんて政宗は知らない。





記憶3



「記憶を取り戻させる方法?」

授業の合間の休憩時間、前の席の政宗にそう切り出された元親は眉間にしわを寄せる。

別にあの野郎の記憶が戻らなくてもいいんだがな…。

頭の片隅でそう思いながら。

「そんな方法なんざねぇよ、そのうち思い出すのを待つんだな」

「やっぱり無いか…」

「当たり前だろ」

現実的なことを言われて頬を膨らまし拗ねる政宗を可愛いと思いつつ、元親は続けた。

「俺達だってそうだ。お互いに出会ってそこから徐々に記憶が戻っていっただろ?」

「…それもそうだな、じゃあ時間をかければ思い出すかもしれねぇって事だな」

真田の事をまだ諦めていない政宗に、元親は多少に苛立ちを覚える。

「で?あいつの記憶を取り戻してどうするんだ?」

また前世のように恋仲になるためなのか?政宗。

今生ではそれを避けたい元親は、さり気なさを装って核心を聞いてみる。

「……、どうもしねぇよ。ただ俺が憶えていて、あいつが忘れてるってのが気に入らないだけだ」

元親から視線をずらし、政宗は机の木目を睨むように答えた。

「ホントにそれだけか?」

「それだけだよ」

その言葉、信じていいんだな?政宗。