記憶7 「おっや〜?」 部活動に勤しむ生徒たちの声が飛び交う放課後、政宗、元親、慶次達は無人の屋上で暇を潰していた。何をするでもなくのんびりしていると、フェンスにもたれて下を見ていた慶次が校舎裏に当たる場所に何かを発見した。 「あれは真田君じゃないですか〜?しかも!女の子も一緒だ」 慶次の言葉にフェンスに背を預けていた元親と政宗は急いで振り返るとその光景を覗き込む。 そこには真田幸村と、うつむいて顔までは確認できないが一人の少女が向かい合って立っていた。 「おお〜、もしかして告られてんじゃないの〜?」 どうやら告白現場らしく、色恋沙汰に目が無い慶次が嬉しそうに飛び跳ねている。 「だが真田のヤツ、断わりそうだな」 慶次ほど興味津々ではないが、それなりに面白そうにそれを眺めていた元親は頬杖をつきながら人の悪い笑みを浮かべた。 確かに真田の態度から、この場をどう切り抜けようかと戸惑っている様子が良く分かる。あまりの分かりやすさに慶次と元親は冷やかし半分で眼下に見える光景のアフレコを始めた。 「前から真田君の事が好きでした。付き合ってください」 「そっそのようなこと、急に言われても心の準備が!!」 ちなみに女役が慶次で真田役が元親になる。 『上手いソレ!』なんて言いながら真似を続ける2人とは対照的に、眼下を睨みつける政宗の眉間の皺が徐々に深くなる。アフレコに夢中な2人がソレに気付いたのは政宗が大音響で怒鳴った後だった。 「てめぇ真田幸村アァ!!女といちゃつくんなら、俺の事を思い出してからにしやがれ!!」 「「わ〜〜〜〜〜!!」」 勢い余ってフェンスから身を乗り出さんばかりの政宗を慌てて元親と慶次が引き離す。 その際、こちらを見上げていた真田と目が合った慶次は、「失礼しました〜」と一応誤るのを忘れない。 直後、真田が何か言いたげに口を開けていたが、そんな事には目もくれず3人は逃げるようにしてフェンスから離れた。 「駄目だよ政宗、邪魔しちゃあ!女の子が可哀相!!」 あえて『女の子だけ可哀相』と言うところが慶次らしい。 言われた政宗も自分が早まったという自覚があったようで、バツが悪そうだった。 「真田の野郎がへらへらしてやがったのが悪い」 いや、へらへらも何も明らかに真田困ってたじゃん。 口には出さないが、元親と慶次は心の中でツッコんだ。 「俺を思い出さねぇヤツは、幸せになる権利は無ぇ!!」 政宗の女王様発言にやれやれと肩を落とす二人だった。 |
記憶8 「申し訳ないが、そなたとは付き合えぬ」 一騒動あった後、我にかえった幸村は同じようにぼんやりしていた女子生徒に躊躇いも無く断りの言葉を告げた。 「そっか…、ごめんね」 言われた瞬間顔を歪め泣きそうになりながらもそう言うと女の子は走り去った。 その後姿を見送り、幸村はまともに彼女の顔も見てないことに気付く。 終始うつむいたままで表情すら分からなかったな。 まぁ今となってはどうでも良いが…。 踵を返し、もう用も無いこの場を後にする。 今頭の中を占めるのは、一人の男子生徒の事。 伊達政宗。 何故か告白を受けたとき、彼の顔を浮かんだ。 自分でも何故だと動揺していると、頭上から彼の声が落ちてきた。 弾かれるように顔を上げ彼と目が合った瞬間、自分の唇が思わぬ言葉を吐き出そうとしたのを覚えている。 何故あの時、あんな言葉を言おうとしたのだろう。 あの男相手に何故。 『俺には、そなただけだ…!!』 これではまるで、愛する者への言い訳ではないか。
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旦那の様子がおかしい。
あれだけ目を合わせないよう避けていた筈のあの男の姿を、今度はずっと目で追っている。
眉間にしわを寄せまるで睨みつけるように彼を見つめる旦那。
旦那の中で一体何があったんだろう。
まぁ不本意だけど旦那が伊達政宗を受け入れるって言うなら俺様は止めないよ。むしろ以前と同じ形に戻るだけだ
あ〜あ、記憶が無くても旦那は独眼竜に惹かれる訳か…。
「旦那、あんなに避けてたクセにどういう心境の変化?」
からかう様に話しかけてみれば、視線を独眼竜から外さずにだが、答えが返ってきた。
「何故か急に気になり始めたのだ」
何それ。記憶が戻る前兆とか?
「あれだけ毎日思い出せ!真田幸村ァって連呼されたら、そりゃ気になるって」
俺様の言葉に少し苦い顔をする旦那。
あれ?違うの?
「あの男が前世で俺のライバルだったらしいが…、だがそれだけであったのだろうか…」
え?
「伊達の隣に当たり前のように居る前田や長曾我部が妬ましいのだ」
それって…。
戦国の世、好敵手でありながら恋仲だった二人。
記憶は無くとも感情は覚えてるって事?
さすが真田の旦那。本能の男だね。
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