記憶4



「真田の旦那!!お弁当持って来たよ〜」

お昼時間、1年教室に明らかに上級生と思われる緋色の髪をした男子学生が当たり前のようにやって来る。

1コ上にもかかわらず、まるで幸村に仕えるかのように接するその上級生の姿に、クラスの者はもう慣れてきたのか今では気にするそぶりすらなかった。

そんな中佐助は当たり前のように幸村の席の前の椅子を陣取ると、机の上にドンと重箱弁当を置く。

だが、いつもなら置いた直後に飛びつくハズの主は黙ったまま。

「あれ、なんか元気ないね」

普通ならよだれを垂らさん勢いでその弁当に群がる幸村だが、今日はその弁当を前に待てをしたままだ。

食べ過ぎてお腹こわしたのかなぁ?それとも拾い食いでもした?

なんて思わず失礼な事を考えてしまう。

「いや、何と言うか…。俺は大事なことを忘れているのかと思ったら気になってきてな…」

そう言う幸村は何時に無く静かで、その姿を目にした佐助は眉間にしわを寄せる。

ちょっと誰よ、ウチの旦那に妙なこと吹き込んだのは…って犯人は分かってるけどね。

入学早々に隣のクラスの伊達政宗に因縁をつけられ、それ以来事あるごとに幸村は彼とぶつかってきた。

その度に

「思い出せ!!真田幸村ァ!!

なんて怒鳴られたらイヤでも気になると言うもの。

頼むから今生では大人しくさせてよ…、独眼竜。

実は記憶持ちの佐助、ハッキリ言って今の平穏無事な生活を壊されたく無い。

前世で真田の旦那を奪っておいて、また奪おうっていうの?

それは俺様が許さないよ。





記憶5

俺と政宗と元親の出会いは今からさかのぼる事小学校時代。

俺達は同じクラスで、それなりに話もする仲で、まぁ初めての親友ってヤツかな。

あの頃はいつも3人で行動していた、って今もか。

その時は皆、前世の記憶なんて無くて只の小学生だった。

その後政宗が病気して片目を失っても、俺達の仲は変わらなかった。

ただ、たまにその事で政宗をいじめるヤツがいて、俺と元親はそいつらを片っ端から殴り倒してたな。

小学生の割りに俺と元親は体格が良かったから、中学生にも負けなかったけど、あん時はさすがにやばかったなぁ。

小学5年の時、ちょっとしたいざこざで中学生数人とやりあったんだ。

その時だよ、記憶が戻ったのは。

10人位の中学生に囲まれて、俺達の手にはは木の棒しかなくて、それを武器にお互い背を預けて戦った。

棒を一振り一振りする度にフラッシュバックって言うのかな、戦場の光景が脳裏にちらついてきてさ。

気がついたら立っていたのは俺たち3人だけ。

3人とも戦うごとに記憶が戻り、それと同時に太刀捌きが冴えいったんだろうね。

いくら年下だからといっても戦国で培った実戦経験のある小学生を相手にした中学生は災難だったろうな。もう少し手加減してあげればよかったんだけど、あの時はそれどころじゃなかったからなぁ。

俺達の記憶が戻って、それを境に俺達の身内にもまるで風邪がうつるみたいにと記憶が戻っていった。

俺の両親の利とまつねぇちゃん。

政宗の兄さんの小十郎さん。

元親の兄さんの元就さん。

どんどん記憶が戻っていったよ。

俺のトコは今までどおりの生活してるけど、政宗のトコは今まで以上に過保護になったって言うし、元親のトコは少しギクシャクしてるみたいだ。

それでも皆記憶が戻って良かったって俺は思ってる。

だからかな。

政宗は真田にも記憶を取り戻して欲しいみたいだ。

元親は忘れたままで良いだろって言ってるけど、俺はどっちでも構わない。

だって自信あるんだ。

今生では真田に負けない自信が。

絶対に政宗は渡さないって自信が、俺にはあるんだよ。




記憶6



「待たせたな」

その言葉とともに赤い具足を身に纏った若武者が目の前に現れた。

「随分と遅かったじゃねぇか」

その姿を見た途端己の体が高揚し、小さな雷がピリピリと体中から溢れ出すのを抑えることが出来ない。

ああ、待ち焦がれていた瞬間が訪れようとしている…。

高ぶった気持ちを静めるかのように、政宗は静かに六爪を抜く。

幸村もそれに合わせて二槍を構えた。

一呼吸おいて、二つの影はお互い引き合うように接近する。

影がひとつになった瞬間、まばゆい光が辺りを焦がした。

 

 

「……shit…」

目が覚めるとそこはベットの上。

カーテンの隙間から射す光が、早く起きろと急かしているようだ。

『夢…か』

まだ余韻の残る頭を左右に振って身を起こす。

今日の目覚めは最悪だ。

着替えて顔を洗って朝食を食べて登校して。

これからやるべき事で先ほどの夢を頭の中から追い出そうとするが、上手くいかない。

『この気持ちを引き摺ったまま、どうやってあいつと顔を合わせろと言うんだ…』

どんなに焦がれようと、かえってくるのは他人を見る眼だ。