小話


式神とは、血の契約をした陰陽師を主と定め、常にその側に控える物の怪の事である。


契約は物の怪が主の血を取り込む事で成立する。

そして主が生きているうちはその精気を吸い、死後はその魂を喰らうという。

主となる術者はそれを承知の上で契約しなければならない。

だが、力のある上位の物の怪を式神に出来れば、陰陽師自らの力も向上する。もっともある程度の力が無ければ、上位の物の怪に見向きもされないであろうが。

失うものも大きいが、得るものも大きい。
それが式神である。





もののけ忌憚 ―式神の休日―





「腹へったな〜」

ここは奥州のとある都。

その町並みを見渡せる位置に大きな城があった。

都を統べる当主であり、陰陽師の一族でもある伊達の城である。

その屋敷の縁側を大きな足音とともに歩いている男がいた。

名を前田慶次。

人型をとってはいるが彼は狼の物の怪で、それの証拠に彼の右腕は肩から獣の形を成している。彼は人に化けるとき、どうしても右腕だけは変化できないのだが、町に出るとき以外は隠す必要も無いので大して気にしていなかった。


「政宗はどっかに雲隠れしたのか?」

慶次は自分の主である政宗を探していた。

ここ暫く政宗から精気を頂いていない。

まあ無理に頂かなくても死にはしないが、精気を頂くという名目で政宗を触りまくりたいというのが本音だ。

それにしても肝心の主の姿が見えない。政宗が寝ているであろう部屋を次々と探し回っているのにだ。

「おいおいちょっと待てよ、よく考えたら真田の姿も見えないじゃないか」

段々とイヤな予感がしてきた。自分と同じく政宗の式神である幸村の姿も見えない。あの男は何だかんだと言いながら、自分を政宗から遠ざけようとする所があり、そのくせ自分は常に政宗の隣に居座っているのだ。

まさかと思いつつ最後に行き当たった部屋の戸を開けた慶次は、中の様子でイヤな予感が当たったのを感じた。


中には政宗が寝ていた。

が、もう一人も一緒に寝ていた。

布団に包まった政宗を後ろから抱くように寝ているのは、幸村。

獅子の物の怪である幸村は今は人型をとり、事もあろうか主を抱いて眠っている。

「なんで真田が一緒に寝てんだよ」

俺だって政宗と一緒に寝たいのにさー。

慶次は面白くなさそうにそっと布団を捲り上げた。隙間から政宗の上半身が見える。そこにまきついた幸村の腕まで。

慶次はそれを見てため息をついた。

俺の嫌な予感って当たるんだよな〜。

「政宗、俺も構ってくれよ」

そう言うと自分も幸村とは反対側に潜り込み、政宗の胸に顔をうずめた。政宗の匂いが慶次の鼻腔をくすぐる。

「ん〜〜いい匂いだ」

政宗を挟んだ向こう側で幸村が嫌そうにする気配を感じたが、あえて無視をする。

慶次がこのまま居座るつもりだと知った幸村は、政宗の腰に絡んでいた腕をぐっと抱き寄せ、自分の元に引き寄せた。

すると慶次も負けじと政宗の顔を自分の胸元に抱きこむ。

でかい二人の男に抱き付かれても、当の政宗は一向に目を覚まそうとはしない。それが二人への信頼の高さを語っているようで、慶次は嬉しくなり政宗を抱く腕に力を込めた。

「前田その腕を放せ。政宗殿が酸欠になる」

だから幸村の言葉も耳を素通りしていく。

こんなにも幸せなひと時だ。

幸村に言い返したい言葉はあったけれど、今この時を壊したくない。

続けて聞こえてきた文句にも聞こえないフリをして、慶次はこのまま寝る事にした。





実は政宗は既に目覚めていて、式神達の幼い行動に呆れながらも、やりたい様にさせているなどとは、知る由もなく。



独自設定テンコ盛りでございます。
表現力が乏しくてすみません。
しかも、これを書くのに2週間以上掛かったなんて言えない(汗)
たったこれだけの文章なのに文才が無いと恐ろしく時間が掛かる…。

小説書きの友人の話だと
書きたいシーンは頭に字で浮かぶらしいです。
私は絵で浮かぶから、それを字に変換するのに手間取るワケだ。
成る程。